生徒に自走させるための余白を
金光学園中学・高等学校
30年以上前から留学生の受け入れや姉妹校交流を実施するなど、いち早くグローバル教育に取り組み始めた金光学園。中高6年間を通して「使える英語を身につけよう」という目標のもと、国際交流に積極的に参加しています。教科書で学んだ英語を実際のコミュニケーション力に生かすための日頃の取り組みについて、山本幸子先生にお話を伺いました。
- 導入前の課題
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- 音読活動の時間が授業中に取れない
- 宿題にしてもやってることがみえない
- 導入の効果
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- 教科書のユニットごとに課題化
- 生徒の頑張りがみえるように
対象:中学3年生
教材:New Horizon(東京書籍)、スピーチ練習、他
ただ教科書を読むだけでは英語力が上がらない
もともと音を重視した英語教育に興味があり、音読は大切だと思っていました。ただ教科書を読むだけでは英語力が上がらないことは分かっていたので、いろいろな学習方法を何年も模索していました。
特にいま私が担当している中3の生徒は、中1の時からコロナ禍で、大きな声が出せない、ペアワークができないなどの制限が多く、発音する機会がとても少なくなってしまいました。マスクをしているので口元が見えないし、声も聞こえにくいので、生徒の発音が分かりません。リーディングやリスニングは、宿題にしてもやっているところが見えず、確実に確かめる方法もないので難しさを感じていました。
ちょうどその頃、回覧で回ってきた教員向け雑誌の中にリピートークについての情報を見つけました。問い合わせたところ、担当者の丁寧な説明に、「私のやりたいことに応えてくれるアプリだ」と感じました。
いきなり学校全体で導入というのはハードルが高いですが、EdTech導入補助金で1年間無料でできたので、まずは私が試してみて、良い結果が出ればフィードバックするという形で始めました。
役立つことに生徒自身で気付いてほしい
教科書の1つのユニットが終わったら、その部分のリピートークを宿題にします。範囲を黒板などに書いておき「今日ここが終わったらリピートークやってね」と声掛けをしています。
やらされている感をあまり出さないために、期日はゆるめに設定しています。
目安として、中間・期末の定期考査前までに提出するように言っています。本当はコンスタントに、習ったらやる。をくり返すのが良いのかもしれませんが、時間に余裕がない生徒が定期考査の前にまとめて提出したとしてもOKにしています。
なぜなら、「これをやったらテストに役立つ」ということを生徒自身で気付いてほしいと思っているからです。教科書の本文が扱われているので、読めば読むほど「定期考査がスラスラ解けた!」「昨日読んだところがテストにそのまま出た!」と喜んでいる生徒もおり、効果を感じているようです。そのため、できるだけ定期考査前にやりたいという生徒もいます。
課題の配信の時期を少しずつずらして、生徒が自分で計画して小分けに行えるような工夫もしています。
あまりにも提出しない生徒は、居残りという形で学校でリピートークに取り組む時間を設けています。そうすると、学校ではやりたくないので、家でやってくるようになります。
期末テストより後の授業で扱った「Let’s Read」の範囲は、長期休み中の課題にしています。課題として結構ボリュームもあるので、段落ごとに分けて、気持ちを込めて朗読練習をくり返しています。また、リスニング教材のスクリプトも課題にしていて、こちらは英検の2次試験のような感じで、初見の文章をすらすらと英語で発音でき、流暢に読めることを目標にしています。
さらに、夏休み課題には、本校独自の「スピーチ練習」も入れてもらいました。毎年行われる校外スピーチコンテストに向けては、4分間スピーチを中3で実施。外国人留学生との交流に向けた練習も兼ねて、令和4年度の中2では、2つのテーマに沿って「1分間スピーチを吹き込みましょう!」という課題を実施しました。
その結果、11月に実施された校外のスピーチコンテストでは、暗唱の部で優勝・準優勝、創作の部で優勝という、大変嬉しい結果を残すことができました。出場した生徒の中には、リピートークの一致率を上げることには苦戦していた生徒もいましたが、努力と成長で「伝わる英語」を身につけ、心に響くスピーチを行い結果を出すことができ、大変感動しました。
AIによる「一致率」との向き合い方
導入当初、リピートークが定着するまでの間は、一致率が高い生徒を「この子90%以上出たよ」「この人うまいね」と授業で紹介したり、ペーパーテストが苦手な子には「読むのは上手だね」と声かけして、生徒のモチベーションを上げるようにしていました。
今はみんなが自然にやる流れができたので、逆にあまり負担を感じさせないようにしています。「このステップをやらなきゃ出せない」などの設定もしていません。
AIの返す一致率については、ちゃんと読めていても数値が低い子や、長時間の学習に取組んでも上がらないケースがあるので、「一致率はあまり気にしなくてもいいよ」と言っています。
AIによる音声認識では、どうしても一語一語を正確に読む生徒の一致率が高くなります。しかし、スピーチコンテストなどで見ていると、リピートークの一致率が高い子が必ずしもスピーチ向きとは限りません。スピーチで大切なリンキングや感情をこめて話す生徒は、AI判定には反映されないこともあるので、そこは教員側で判断しながら評価しています。
添削は、誰が出してるかな?と毎日のメールチェックと同じ感覚で行えています。取り組んでいる生徒に「昨日頑張っていたね」と声をかけると、生徒は自分の結果を分析する話をしてきます。
基本的には一致率40%以上は合格で、軽く聞いてテンプレートでそのまま返します。一致率が一定以下の生徒については個別に音声を聞き、なぜできないのかアドバイスを付けるようにしています。
以前一致率を基準にして評価を付けていたら、実はAIに読ませていた、ということがありました。ときどき実際に音声をしっかり聞くことも大切だなと思います。
生徒たちの能力を発見する機会に
最初は読むのが苦手だった生徒で、1年以上経った今ではスラスラ読めるようになった子も増えています。
教科書のレベルも高くなってきていますが、リピートークをやっていると読むことに抵抗がなくなっているなという実感があります。
人前では読むのを嫌がる生徒でも、家ではこんなに読めるんだ!と、学校では見ることのできない生徒の能力を発見する機会にもなっています。